
転職サイトを開いても、結局なにも決められないまま閉じちゃうんです。もう何ヶ月もそれの繰り返しで、自分でも情けなくて。

ちなみに、その転職サイトには求人が何件くらい載っていますか?

えっと……たしか10万件以上って書いてありました。それが関係あるんですか?

大ありです。例えば人間はジャムが24種類あるだけで選べなくなって購入を断念する…なんて研究結果もあるくらいですから。10万件なんて、そりゃ決まりませんよ〜。
この記事で扱うテーマ
悩みすぎているのではありません
結論から言うと、決められないのは、性格でも決断力でもなく、選択肢の数の問題です。
1995年、コロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授がスーパーで実験をしました。
ジャムの試食コーナーを作り、置く種類を変えて売れ方を比べたものです。
| 並べたジャム | 立ち寄った人 | 購入した人 |
|---|---|---|
| 24種類 | 60% | 3% |
| 6種類 | 40% | 30% |
出典:シーナ・アイエンガー『選択の科学』
種類を4分の1に減らしたら、購入率が10倍になりました。
24種類のほうが人は集まります。楽しそうに試食もします。
でも、買わずに帰る。
ジャムですらこうなります。
求人10万件で決められないのは、当たり前の反応です。

人が選べる数には上限がある
同じ教授が、こうも結論づけています。
つまり5〜9個である。
5〜9個。しかも現代人は情報量が増えたぶん、この数字がさらに減って「4±1」になっているという説もあります。
あなたはどっちタイプ?

でも友達は同じ転職サイトを使って、あっさり決めてましたよ。同じ条件なのに。

そこなんです。人には決め方のクセがあって、お友達とあなたは別のタイプかもしれませんね〜。
心理学者のバリー・シュワルツは、人の意思決定方法を2つに分けました。
まずは、あなたがどのような基準で意思決定を行なっているかテストしてみましょう。
それぞれの場面で、AとBのどちらが自分に近いか見てみてください。
| 場面 | A | B |
|---|---|---|
| スマホの機種変更 | 今のやつの後継機でいい | 全キャリア・全機種を比較する |
| ネット通販 | レビューを2〜3件見て決める | 何十件も読み込む |
| 店のメニュー | だいたいいつものやつ | 全部見ないと落ち着かない |
| プレゼント選び | 喜びそうなものが見つかればOK | もっと良いのがある気がして決まらない |
| 決めたあと | これでよかったと思う | 他を選んでいたらと考える |
Aが多い人はサティスファイサー、
Bが多い人はマキシマイザーと呼ばれます。
2つの決め方
マキシマイザー:常に最高の選択を求める。「もっと良いものがあるかも」と考え続ける
サティスファイサー:自分の基準を満たしたら、そこで比較をやめる
ひとつ大事な前提があります。きれいに二分されるものではありません。
シュワルツが作った13問の診断でも、平均点は真ん中あたりに集まります。ほとんどの人が両方の要素を持っていて、場面によって使い分けているだけです。
ただ、キャリアという場面でどちらが出ているか。そこは知っておく価値があります。

高い給料を得た人が、後悔していた
ここで多くの記事は「マキシマイザーはやめましょう」と書きます。
でも、話はそう単純ではありません。
先ほどのアイエンガー教授が、就職活動中の大学生548人を追跡調査しました。
548人の就活生を調べた結果
マキシマイザー傾向の強い学生は、サティスファイサー傾向の学生より20%高い初任給の仕事を得ていた。
しかし、その就職先への満足度は低く、後悔などの否定的な感情を経験していた。
より良い会社に入ったのに、より不満だった。
徹底的に比較する人は、実際に良い結果を出します。そこは事実として認めるべきところです。
ただし代償があります。
比較し続けたぶん、「もっと良い選択があったのでは」という感覚も残り続けます。
| マキシマイザー | サティスファイサー | |
|---|---|---|
| 客観的な結果 | 良い | まあまあ |
| 本人の満足度 | 低い | 高い |
| 決めるまでの労力 | 大きい | 小さい |
どちらが正解とも言えません。条件を取るか、納得感を取るかという話だからです。
そもそも全部は比較できない

私は完全にB寄りでした。でも全部見ないと、いい求人を見逃しそうで怖いんです。

その「全部見る」が、そもそも無理なんですよ。ノーベル賞を取った学者がちゃんと証明しています。
1978年にノーベル経済学賞を受賞したハーバート・サイモンは、限定合理性という考え方を提唱しました。
人は合理的に判断しようとするけれど、認識能力に限界があるから、限られた合理性しか持てない。そういう理論です。
理由は2つ挙げられています。
- 1将来のことは、誰にも分からない(不確実性)
- 2情報を集めるには、時間と労力がかかる(コスト)
求人10万件を1件ずつ検討したら、それだけで何年もかかります。しかも入社してみるまで、本当に合うかは分かりません。
全部を比べて最善を選ぶことは、人間の構造上できません。
能力の問題ではなく、誰にとってもそうです。

両取りはできないの?
ここまで読むと、こう思うかもしれません。
良い条件を取れば後悔し、納得を取れば条件を諦める。どちらかしかないのか、と。
サイモンは、その先も考えていました。満足化仮説と呼ばれる考え方です。
達成希望水準を設定し、その水準以上が達成されれば、
さらに改善するための代案を模索することはしない。
順番を整理すると、こうなります。
- 1探し始める前に、自分の水準を決める
- 2その水準を満たすものが見つかったら、比較をやめる
- 3見つからなければ、水準を見直すか、探す場所を変える
水準の高さは、自分で決めていい
ここが両取りの入り口です。
「サティスファイサー」という言葉は、認知科学者のサイモンが作った造語でした。
Satisfy(満足する)+ Suffice(十分である)を合わせたものです。
もともと「妥協する」という意味は入っていません。「十分だと言える基準を持っている」という意味です。
そして、その基準を高く設定してはいけないというルールはどこにもありません。
両取りの形
高い水準を設定する(=良い条件を狙う)
+
満たされたら比較をやめる(=納得して決める)
マキシマイザーが苦しいのは、基準が高いからではありません。
そもそも基準がないから、どこまで探しても終わらないのです。
終わりのない比較を止めるものが、自分の基準です。
まとめ:決めるのは求人ではなく基準

私、求人を選ぼうとしてたけど、その前に自分の基準を決めてなかったんですね。

そこに気づけたら大きいですよ〜。基準がないまま10万件を見ていたら、そりゃ何ヶ月でも迷いますって。
今日の内容を整理します。
- 1ジャムが24種類あるだけで、購入率は10分の1に落ちる
- 2人が快適に選べるのは5〜9個まで
- 3徹底比較する人は20%良い条件を得るが、満足度は下がる
- 4全部を比較することは、そもそも人間にはできない
- 5先に基準を決めて、満たされたら比較をやめる
決められないのは、悩みが足りないからでも、決断力がないからでもありませんでした。
選ぶ前に、基準を決めていなかっただけです。

そして基準を作るには、自分が何を大事にしているかを知る必要があります。年収なのか、時間なのか、人間関係なのか。
その順番については、こちらで詳しく書きました。
書き出して整理するところから始めたい方は、こちらもどうぞ。

今日は求人を見るのをやめて、自分が何を譲れないのか書き出してみます。そっちが先ですね。

その順番なら、次に開いたときは10万件が10件くらいに見えますよ〜。いってらっしゃい!




